演目のあらすじ「あ・い」の巻

「葵 上」(あおいのうえ)


四番目物   所・京都

前シテ・六条御息所生霊、後シテ・御息所の生霊(鬼)ツレ・照日巫女、ワキ・横川小聖、ワキツレ・大臣
光源氏の北の方「葵上」が原因不明の病気に悩まされます。どうやら何かにとりつかれているようです。その本性を知る為に、照日巫女を呼び梓の弓にかけます。すると破れ車に乗った女が現れ車の長柄に取り付いてさめざめと泣いています。大臣は巫女を通してその名を尋ねます。女は「私は六条御息所の怨霊である」と言い。光源氏の愛を失った恨みをのべ、葵上を祟ろうとします。巫女は必死に止めますが、御息所の恨みは益々大きくなり葵上を打ち据えまた、葵上を連れて行こうとします。
御息所のあまりの力の強さに、大臣は行者・横川小聖を呼び加持祈祷をさせます。行者の祈りに御息所の怨霊は鬼女の姿となって現れます。鬼女と化した御息所は再び伏せっている葵上に襲いかかります。しかし行者に祈り伏せられ、御息所の怨霊は心を和らげて成仏得脱の身となるのでした。

「阿 漕」(あこぎ)


四番目物(略五番目物)所:伊勢国阿漕浦

前シテ・漁翁、後シテ・阿漕、ワキ・男、ワキツレ、アイ・浦人
日向の国(今の宮崎県)の男が、お伊勢参りをしようと伊勢国(今に三重県)の阿漕浦へとやってきます。そこで一人の漁翁に出会い、漁翁に「阿漕浦」の名前の謂われを尋ねます。漁翁は「昔、禁漁のここで阿漕という漁師が密漁をし、それが見つかりその咎で阿漕はこの浦に沈められ、そのことから名づけられた地名である」と語ります。そして漁翁は自分が阿漕の霊であることを明かします。やがて日暮れとなり漁翁は網の綱を手繰り、手繰りしていましたが俄かに疾風が吹き荒れ辺りが暗くなったと思うと魚翁の姿は波間へと消え失せます。
男は、阿漕の霊を弔おうと法華経を読誦していると阿漕の霊が現れます。霊は、密漁の様子や死後に落ちた地獄の苦しみの有様を示し、男に助けて欲しいと回向を頼み、また波間へと消えるのでした。
メモ:前シテは釣竿を、後シテは網を操ります。魚を捕る二つの道具が出てくる能です。
釣竿は、竹竿に紐を捲いて作ります。
とっても簡単にシンプルに作りますが、きっちりと釣竿に見えますよ。

「安達原」(あだちがはら)
五番目物

所:岩代国大平村黒塚

前シテ・里女、後シテ・鬼女、ワキ・山伏祐慶、ワキツレ・供山伏、アイ・能力
諸国をまわる旅に出た、紀伊国那智の東光坊の山伏祐慶一行が陸奥の安達原に来た時、日が暮れてしまいある一軒家に泊めて貰います。その家には、老婆が一人住んでいて、祐慶の所望に応じて枠かせ輪を持ち出し糸を繰って見せたりします。やがて夜も更け冷え込んできたので、寒さをしのぐ為の薪を拾いに山へ行くと老婆は言います。そして自分の留守中に決して自分の寝屋を覗かないでくれと言い残し山へ入ります。主の言葉を不審に思った能力はこっそり主の寝屋を覗きます。するとそこには、人の死骸・白骨が山のように積み上げられています。驚いた能力は、祐慶に報告します。驚いた祐慶は自らも寝屋を見、ここが噂に聞く安達原の黒塚の鬼の住処かと驚き足にまかせて逃げていきます。寝屋を覗かれた事を知った老婆は鬼の正体を現し、祐慶達を追いかけてやって来、祐慶たちを取って食おうとします。祐慶たちの懸命の祈りにより、鬼はついに祈り負けて姿を隠すのでした。
主の言葉を不審に思った能力はこっそり主の寝屋を覗きます。するとそこには、人の死骸・白骨が山のように積み上げられています。驚いた能力は、祐慶に報告します。驚いた祐慶は自らも寝屋を見、ここが噂に聞く安達原の黒塚の鬼の住処かと驚き足にまかせて逃げていきます。寝屋を覗かれた事を知った老婆は鬼の正体を現し、祐慶達を追いかけてやって来、祐慶たちを取って食おうとします。祐慶たちの懸命の祈りにより、鬼はついに祈り負けて姿を隠すのでした。
観世流は「安達原」。他流では「黒塚」と言います。この曲は黒頭と白頭の替の演出があります。黒は、鬼の力の凄さ。白は、老体の鬼を現します。

「敦 盛」(あつもり)


二番目物(修羅物)  摂津国、神戸市須磨一の谷

前シテ・草刈男、後シテ・平敦盛霊 ツレ・草刈男、ワキ・蓮生法師、アイ・里人
熊谷直実は、一の谷の合戦で平敦盛を手にかけまた。16歳の少年を討ってしまい、戦、世の中に無常を感じ出家して蓮生と名乗りました。そして敦盛を弔う為に一の谷に下ります。すると、どこからともなく笛の音が聞こえ、草刈男達がやってきます。蓮生が今の笛はあなた方が吹かれたのですかと聞くとその中の一人の男が「そうです」と答えます。そしてその男と話をしていると、他の男達は帰っていきます。蓮生は男に「なぜあなたは帰らないのですか」と聞きます。すると草刈男は自分は敦盛のゆかりの者です。十念を授けて欲しいのです。と、言い自分が敦盛の霊であることをほのめかし消えます。
蓮生が夜もすがら回向をしていると敦盛の霊が現れます。そして昔語をします。それは、あの合戦の前夜、父経盛らと今様を謡い、自分は笛を吹き遊興したこと。そして、栄華を誇った平家の没落。そして自分の最期の事。自分の最期を思い出し、蓮生こそが自分の敵だと太刀を振りかざし蓮生にかかってきます。しかし自分の事を弔ってくれる蓮生に感謝をし、後々の供養を頼み消え失せます。

「海士」(あま)
五番目物(略四番目物)  所:讃岐国志度浦

前シテ・海人、後シテ・龍女、子方・房前大臣 ワキ・従者、ワキツレ・従者、アイ・浦人
藤原房前が自分の母親が讃岐国で亡くなった海人であることを聞き、母親の追善供養のために讃岐国志度浦へとやってきます。
そこへ一人の海人がやってきます。房前の従者は、海人に色々と物を尋ねます。すると海人は、「あそこに見える島は新珠島というのです」と従者に教え、その謂れである「珠取り」の話を聞かせました。
「昔・淡海公(藤原不比等)の妹が唐の皇帝に嫁ぎました。その后の氏寺が興福寺ですので、唐の帝から興福寺へ三つの宝が送られました。それは華原磬(かげんけい)・泗濱石(しひんせき)・面向不背の珠(めんこうふはいのたま)の三つでした。中でも面向不背の珠は珍しく、珠の中に釈迦の像がおられまして、どの方向から見てもこちらを見られてられるので、面を向こうに背かずと書いて面向不背の珠と言うのです。その中の二つの宝は京着したのですが、珠だけはこの沖合いで龍宮に奪われてしまったのです。淡海公は、龍宮よりその珠を取り返そうとこの浦へとやってきます。
そしてどうしたら取り返せるものかと長い間悩んでいました。そのうちに一人の海人と恋に落ち、男の子が生まれました。その生まれた男の子こそが今の房前大臣なんです」
海人の話をこっそりと聞いていた、房前の大臣。母を知っているかもしれない、この海人からもっといろんな話を聞きたいと、房前は自分の素性を海人に明かしもっと話を聞かせてほしいと頼みます。海人は、他所の事と思っていた人が目の前にいることに驚きますが、珠取りの話を続けます。
「その子を産んだ海人は、淡海公に{自分の子を世継ぎにしてくれるのであれば、命を投げ出して龍宮へ珠を取りにいきます}と淡海公に告げたのです。海人の申し出に淡海公は、その子を世継ぎにすると約束したのでした。
海人は安心し{もし成功すれば腰の縄を動かしましょう}と皆に約束し、海中深くの龍宮へ向かって潜っていったのです。龍宮へ着いたものの、八大龍王が住む龍宮です。八大龍王のほかにも、悪魚や鰐が口をあけていてとても恐ろしい様子です。これはとても生きて帰れそうにない。しかし、我が子の為に頑張らねばと、志度寺の観音様に祈り決死の覚悟へ龍宮へ飛び込みました。いきなりの海人が飛び込んできたことに、龍宮の者は驚き左右に逃げていったのです。龍宮の者が逃げたその隙に海人は、珠を取って逃げ出しました。珠を取られた竜宮は大騒ぎ。取り返されてなるものかと、守護神が追いかけてきます。龍宮の者たちは死人嫌うということを知っていた海人は、自分の乳房の下を鎌で掻き切ってその奥へ珠を隠したのです。血を見た龍宮の者たちは、海人に近づけずけません。その間に海人は腰にくくっていた縄を引っ張って海上に合図をおくりました。海上にいた人々は縄が動いたことに{成功したんだ}と喜び、急いで海人を引っ張りあげました。。。
しかし、引っ張りあげた海人の姿は龍宮の者たちに切り裂かれたりでとても無残なものでした。大臣は{珠も取り返せず、しかもこんなひどい姿になってしまうなんて}と嘆かれました。
すると海人は{私の乳房の下をご覧ください}と息も絶え絶えに大臣に言いました。乳の下を見ると一つの傷跡があり、その中から光り輝く珠を取り出したのです。
こうして淡海公と海人との約束の通り、その子であるあなたが世継ぎとなり、またこの浦の名にちなんで房前大臣という名になったのですよ」と海人は語ります。その話に圧倒された房前の大臣。
さらに海人は「自分こそが貴方の母。その海人の幽霊なのです」と房前に語りかけます。そして自分の言葉を扇に書き「このことを疑わずに、私のことを弔って欲しい」と大臣に言い残し、海人は海の中へと消えてしまいました。
不思議な出来事に大臣は驚きますが、海人の言うとおり扇を開けるとそこに文字が書かれていました「私の魂が黄泉にいって十三年。冥途はとても暗く、私を弔ってくれる人もいない。もし、あなたが孝行息子であるならば私の冥途での迷いを助けなさい」と書かれていました。確かにその出来事より十三年。これはまさしく亡き母の手跡であると確信し、房前大臣は妙法蓮華経を読み十三回忌の追善法要をはじめます。
するとそこへ母の霊が龍女の姿となって現れ、追善供養のお陰で成仏できたことを喜び舞を舞い志度寺の観音をたたえるのでした。

「岩 船」(いわふね)

五番目物(切能) 所・摂津国住吉浦

シテ・龍神、ワキ・勅使、ワキツレ・臣下
摂津国住吉での浜の市で、高麗の宝を買い取れとの宣旨を蒙った臣下が住吉に下向します。するとそこへ龍神が宝をたくさんのせた御船を守護して現れ、金銀珠玉などの数万の捧げ物の宝を運び上げ、山の如くに積み上げ龍神はこれからも君を守る事を誓います。
元は、前場・後場がある1曲の神様物の脇能でした。観世流は前場をカットして後半のみの短くさっぱりとした祝言曲にしたのです。現在観世流を除いた他の流儀では前後の形として上演しています。
(岩船の前場のあらすじ)摂津の国に勅使が着くと唐人の姿をした童子が現れます。そして勅使に珠を捧げます。勅使は童子にその謂れを尋ねます。童子はその謂れを答え、また住吉の神の徳を讃え、そしてそろそろ岩船を漕ぎ出す時間だといいます。実は私は、その宝の岩船を漕ぎ寄せた天の探女であると言って消えうせます。

岩船は、神代の時代に空をとんだと伝えられる船です。天の探女と言う神が岩船に乗って天下ったと言われています

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